興味深いので、紹介します。
(東京新聞9月25日付けより)
耳の不自由な人向けに、大手映画会社が邦画に字幕をつける動きが広がっている。映画業界もバリアフリーが進む一方で、子どもも見る映画なのに字幕の漢字にルビがないなど課題も残る。 (石原真樹)
宮崎駿監督の人気アニメ「崖の上のポニョ」(東宝)。全国三百四十上映館のうち四十五館で、期間限定で聴覚障害者向けに字幕版を上映している。せりふのほか、「ハッ」(驚いた様子)や「(小鳥のさえずり)」など状況描写も画面下に文字で表される。
聴覚障害者向けの邦画の字幕版は長い間、市民団体や一部の制作会社が作るだけだった。バリアフリーを求める時代背景や、短時間で字幕をつけられるようになったことなどで、大手映画会社が「基本的に全作品に字幕版を」との姿勢になったのはここ数年だ。昨年一年間に公開された邦画のうち字幕版がある割合は、松竹は約三割、東映は約六割、東宝は約八割に及ぶ。
だが、課題も見つかっている。
聴覚障害者向けにテレビの字幕制作などを行う聴力障害者情報文化センターの森本行雄さん(53)は、「崖〜」は「子どもには難しいと思った」と話す。最初の字幕から「(汽笛)」で、「保育園」「戻る」など漢字にルビがなかったからだ。
配給元の東宝によると、アニメ「ドラえもん」など子ども向け映画は難しい漢字を平仮名にしたり、平易な言葉に置き換えたりしている。しかし「崖〜」は全世代を観客に想定しているため、小学校低学年には難しい漢字も使い、ルビもふっていない。子どもが読めないとの指摘に、担当者は「確かに、ルビをふっておいた方がよかった。今後はそういう要望も取り入れていきたい」と話す。東映はマンガ作品を中心に字幕にルビをふるが、松竹は文字が小さく見にくくなるためふらないなど、各社の対応はまちまちだ。
字幕に対しては、現場からもいろいろな意見が挙がる。都内のろう学校教諭は、聴覚障害の子どもは漢字を図形としてとらえ意味を読み取っているところがあるとして「字幕がすべて平仮名では読みにくくなる」と話す。別のろう学校教諭は「耳が聞こえない子は語彙(ごい)を獲得するのに時間がかかるので、言い換えや要約をせずにせりふをそのまま字幕にしても理解できないのでは」と指摘する。
また、制作側の都合で字幕版が作られないこともある。アニメ「ONE PIECE」(東映)シリーズは、二〇〇七年は字幕がついたのに〇八年はない。完成が遅れ公開に間に合わなかったためだ。聴覚障害者からの苦情は「DVDを待ってくださいと対応している」(東映担当者)。
森本さんは「字幕版をどこでも見られるわけではなく、障害者が得られる情報はまだ圧倒的に少ない」とバリアフリー推進の必要性を強調する。映画ジャーナリストの大高宏雄さんは「平仮名ばかりの字幕は大人に見づらいし、子どもが漢字を読めなければ意味がない。観客の要請を受けてどう改良するか、今は過渡期だ」と話す。
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